
地方都市のオフィス市場は、景気の低迷に加え、都市間競争の激化で中心市街地の空洞化が進み、いまや危機的状況にある。
九州を代表する都市の一つ、大分市でビル賃貸・管理業を営んでいる新大分土地㈱(大分県大分市、代表取締役社長:阿南勝啓氏、資本金:1100万円)もそうした厳しいオフィス市場でビジネスを展開中だが、築年数の経った自社ビルを若い起業家向けに大胆にリノベーションすることで、見事満室化を実現。さらに、そのノウハウを生かし、中心市街地の活性化に向けた大型プロジェクトにも取り組み始めている。

「古いビルを魅力的にリノベーションして、若い起業家たちを応援したい」(同社代表取締役社長・阿南勝啓氏)
同社は、1938年創業。戦中戦後の貸家業を経て、高度経済成長期から賃貸ビル開発を本格化した。地元起業家などにオフィスを提供し、バブル期まで自社ビル5棟はほぼ満室稼働で、盤石な経営基盤を確立していた。
ところが、バブル崩壊でその安定経営に綻びが生じ始める。景気の悪化や、企業の撤退等によりビル空室率は上昇。さらに、60年代に建てられた自社ビルの老朽化がテナント離れに拍車をかけ、90年代後半には、空室率がついに20%を超えた。こうした状況に危機感を覚えたのが、福岡の不動産会社での修業を終え帰郷、四代目社長の阿南清信氏(現会長)を引き継ぎ99年、代表に就任した阿南氏だった。
「テナントのニーズや価値観がドラスティックに変化していると、肌で感じました。何か手を打たなければ生き残れないと思っていた矢先の2003年、自社ビル5棟の空室率が50%を超えてしまったのです」(阿南氏)。
そこで、同年にスタートしたのが、「d・dプロジェクト」だ。
「d・d」とは「dreamsdevelopment」の略で、同社の企業理念でもある。「当社は創業当時から、若い経営者や地元で頑張っている人たちに起業の場を提供してきました。そして彼らが頑張ることでまちは賑わってきたのです。今も、夢を実現する場を求める若い人たちはたくさんいます。当社のビルを彼らが“借りたくなるような”カタチにリノベーションし提供することで、その夢づくりを応援したいと考えたのです」(同氏)。

パーソナルオフィス「タノシゴトバ」。廊下側に大きなガラス壁を設け、テナントが仕事ぶりや商品をアピールできるようにした
これまで手がけたリノベーションは、自社ビルを中心に7プロジェクト。その用途も、商業店舗やSOHO、パーソナルオフィス、シェアオフィスなど多岐にわたる。既存ビルの古さを生かしながら、テナントが自由な発想で使えるよう仕上げるのが基本だ。
例えば「タノシゴトバ」と名付けたパーソナルオフィスでは、廊下側に大型のガラスを埋め込み、中で働く人たちが見えるようにしている。「自分たちの仕事や商品をアピールしたい人たちは少なくないはず」(同氏)というコンセプトに共鳴し、手作り靴職人、オーダーメイドドレス制作工房といった個性的なテナントが多数入居した。「スローダイニング」という商業店舗も、蕎麦バー、手作り豆腐カフェなど、若い起業家による一味違ったテナントが集まり、いずれも地元の人気スポットとして、話題を振りまいている。
プロジェクト推進にあたり重視したことは3つある。まず、「テナントが主役」。第1弾の企画立案には、同社と建築家・デザイナーに加え、地元のショップ経営者なども参加した。以降のプロジェクトも、コンセプトを理解してくれるテナントを厳選。「われわれとテナントが一緒になってビルの価値を高めていく」という姿勢を打ち出している。
次に「経済的支援」。若い経営者たちは、「やる気」はあっても「資金」がない。しかし、同社が改修コストを回収するには、賃料を従前より1・割上げざるを得ない。そこで、敷金(保証金)や礼金をゼロにするなど、最もテナントの負担になる入居時費用を大幅に軽減。同社が資金リスクを背負い、テナントを支援した。
そして3番目は「募集手法の変革」。これまでのような不動産広告ではなく、竣工物件を使ったコンサートの開催、また2ヵ月に1度発行するフリーペーパーで、イベント来場者や購読者の「クチコミ」を掲載しテナントを集めた。「空間の魅力を肌で感じた人たちからのクチコミこそ、何よりの広告宣伝」(同氏)との考えだ。
これら一連のプロジェクトにより、同社が事業を手がけた7つのビルでは空室がほぼ解消した。


パーソナルオフィス「タノシゴトバ」。廊下側に大きなガラス壁を設け、テナントが仕事ぶりや商品をアピールできるようにした
リノベーションを手がけたビルすべての再生に成功した同社が、新たにビルを取得、再生に取り組んだのが、09年2月にリノベーションを完了したwazawaza(ワザワザ)」だ。取得したのは、かつては同市内で最も賑わっていた「竹町通り商店街」に面する、築41年4階建てのビル。所有者の家具屋が倒産し、数年にわたり放置されていた物件だ。「元気を失っている商店街のなかでも一番端の場所にあるのですが、その人通りの少なさが逆に“隠れ家”的空間という、新しい価値を付加できるのでは、うまく再生すれば商店街の活性化につながるのではと、取得を決断しました」(同氏)。
建物取得費を含め3億円と、同社にとって過去最大規模となった同プロジェクトだが、その趣旨が評価され、経済産業省の「戦略的中心市街地商業等活性化支援事業」の補助金対象となるなど“お墨付き”も得ることができた。
同物件には1階の中央部に通路を設け、商店街から裏通りへ抜ける「路地」をつくっている。南側を塞いでいたタワーパーキングを解体し、平屋の商業棟を建設。植栽もふんだんに施し、憩いの空間を演出した。2階・3階は、幅広い廊下に面したガラス張りの開放的なパーソナルオフィス、4階は広大なオープンテラスに面した店舗としている。
「オフィス部分についてはほぼ満室となりましたが、商業テナントの募集はこれからが本番です。店主のこだわりが見える、『わざわざ行きたくなる』テナントをじっくりと厳選して、商店街に新たな風を吹き込みたい」と同氏は意気込みを語る。
なお同社は「wazawaza」の向かい側のビルも取得済みで、「wazawaza」の稼働が安定次第、再生計画の立案に着手する。
今後は、同市中心市街地のビルオーナーに対し、ビル再生を積極的に提案していく方針だ。「これまでの事例を評価していただき、オーナーの反応も良くなってきました。これからも、多くの人に支持されるビルや住まいづくりを通じて、大分の生活文化を創り上げていきたい」(同氏)